大気力学分野・各研究について

地球温暖化

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 CO2が増加すると大気大循環(平均子午面循環)がどのように変化するのか、数値モデルを用いて研究しています。 大気大循環とは「地球規模の大気の循環(流れ)」という意味であり、 対流圏のハドレー循環や中緯度循環、成層圏のブリューワードブソン循環などが知られています。 大気大循環は大気の角運動量や熱の輸送の反映であるため、大気大循環を理解することは大気の力学構造を理解することにつながります。 また、オゾンなどの物質の輸送を知ることができます。

 左の図は12月から2月における現在気候の大気大循環 [10^10 kg/s] を示しています。 東西方向に平均し、横軸に緯度、縦軸に気圧(高度)をとっています。 赤色の領域では大気は等値線に沿って時計回りに運動します(青色の領域では反時計回り)。

 右の図はCO2の濃度が現在の2倍になったときの大気大循環の変化(CO2 2倍の気候−現在の気候)を表しています。 これらの図から、成層圏(おおよそ200hPaより上層)で赤道から北極へ向かう流れが強まり、 対流圏(おおよそ200hPaより下層)の中緯度で温帯低気圧に伴う循環が弱まっていることがわかります。

アジアモンスーン

 夏のアジアモンスーンは主要なモンスーンシステムの一つとされており、2つのサブシステム(インドモンスーン、東アジアモンスーン)から成り立っている。モンスーンの開始(onset)とは一般に、ユーラシア大陸とそれを取り囲む海洋の間の熱コントラストによって西風が強まることである。アフリカ東海岸沖の赤道を横切る風は、西風となって水蒸気を増やし、南・東南アジアにおいて多量の雨をもたらす。このメカニズムは東南アジアでは5月中頃、インド洋では5月終わり頃に始まることが多く、北半球夏季に強まる。陸と海の熱コントラストに加えて、SST(海面温度)もアジアモンスーンの西風やモンスーン降水に影響する。

 海陸の熱コントラストと比較して、SSTがアジアモンスーンの開始と強まりにどれだけ影響しているのかを詳細に調べるために、GCM(大気大循環モデル)の一つである気象庁GSM(全球スペクトルモデル、解像度T63L40)を用いてSST実験を行う。現在行っているSSTインパクト実験は、インドモンスーンと南シナ海モンスーンに焦点をおいている。

 我々の過去の研究では、海陸熱コントラストとSSTは、アジアモンスーンの開始に対してどちらも大きく寄与していることを示した。海陸熱コントラストはユーラシア大陸の周りに下層ジェットを励起し、アジアモンスーンの西風の形成に主要な寄与を及ぼす。SSTの季節進行は成層を不安定化し、南半球から北半球へのITCZ(熱帯収束帯)ジャンプを引き起こす。また、ハドレー循環を強め、絶対角運動量の正味の輸送によってモンスーンの西風を強化する。

 今回の実験によって、南シナ海は亜熱帯インド洋におけるモンスーンの西風を有意に強め(弱め)、南シナ海とベンガル湾の降水を強める(弱める)ことを示した。より明確な結果を得るために、現在いくつかの実験を行っている。モデルの結果を裏付けるため、観測データの解析も考慮している。

台風

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 台風とは熱帯域で発生する半径数百kmから千kmスケールの低気圧(熱帯低気圧)で、 非常に激しい強風や降雨を伴い、しばしば日本に災害をもたらします。  北西太平洋域では年間およそ27個の台風が発生し、そのうちの約3個が日本に上陸します。ただし、年変動が大きいです。

 特徴的な構造として、目の壁雲やスパイラルバンドと呼ばれるものがあります。

 台風は、主に水蒸気の凝結熱によって上昇流が駆動されることで形成、維持されます。 熱帯域では暖かい海水から水蒸気が盛んに蒸発し、活発な対流活動が起こっており、 対流圏下層の低気圧性の擾乱や偏東風波動、上層の寒冷低気圧などの擾乱によって積雲が組織化され、 台風の形成に至ると考えられています。

 また、台風の発生域の特徴としては、暖かい海水温度、湿潤な大気、弱い風速の鉛直シアーが知られています。 しかし、熱帯域において台風の発生に適切と考えられる条件を満足する状況があっても、 実際に擾乱が台風として発達するのは僅かであり、発生段階の力学については未だよく理解されてはいません。 これは、熱帯域は観測の乏しい地域であり、そもそも台風は海上で発生するので、直接観測を行うことが困難であるためです。

 そのために、数値シミュレーションは台風の発生、発達の力学を理解するのに有効です。 本研究室では、気象庁、気象研究所で開発された非静力学モデル(NHM)を用いて台風の発達過程を再現し、 その発達要因を明らかにすることを目指しています。

下層雲

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 地表から高度約2kmまでの高度に発生する低い雲は下層雲と呼ばれています。 下層雲は激しい降水を伴うことは少ないため、あまり重要でないように思われがちです。 しかし、海上に多く分布する下層雲は日射を反射するため、地表面での熱収支や地球の放射収支に大きな影響を及ぼします。 そのため、下層雲は冷害をもたらすヤマセ雲の予報や地球の気候予測にとって無視することができない予報対象です。

 一方、下層雲は個々の雲のサイズが小さいため、 数値予報モデルに用いられるような粗いメッシュ(水平で10km以上)では直接表現することはできません。 そのためパラメタリゼーションと呼ばれる手法で格子スケール以下の下層雲を表現します。 パラメタリゼーションの精度を向上させるには下層雲のメカニズムを理解することが不可欠です。 下層雲のメカニズムを理解するためには、 雲の物理過程や力学を直接表現できる雲解像モデルと呼ばれる非常に細かいメッシュの数値モデルが強力なツールとなります。

 私たちは、雲解像モデルを用いて下層雲のシミュレーションを行い、 その結果を数値予報モデルでの下層雲の表現に反映することで、下層雲の予測精度の向上を目指しています。 また、大気海洋変動観測研究センター気候物理学分野の浅野正二教授のグループが行っているヤマセに伴う下層雲の船上観測や雲の衛星リモートセンシングとも比較・検証を行い、数値モデルの改善を進めています。

重力流

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 重力流とは、流体の温度差、濃度差などによる密度差によって生じる流れのことをいいます。 大気中では、寒冷前線や海陸風の前線面、 積乱雲の雲底下に形成される冷気塊の下降気流(ダウンバースト)などで重力流と相似な構造、振舞が見られます。

 これらの前線面は、地表面との摩擦により地表面付近での進向速度が遅れることで、 地表より数十m高い位置が出っ張り、ノーズと呼ばれる構造が生じます。 ノーズでは冷たい(重い空気)が暖かい(軽い)空気の上に乗り上げるので、不安定な構造となります。 よって、ノーズで乱れが発達すると、ノーズが崩壊し、出っ張り(ローブ)や裂け目(クレフト)が形成されます。 これを、ローブ・クレフト構造と呼び、複雑な3次元微細構造を持っています。

 図は重力流の3次元微細構造を数値シミュレーションによって再現したもので、 温位*1偏差*2が-1Kの等値面を示しています。 上空3kmほどの高さに冷気塊を置き、それが自重で落下して地表面に衝突し、水平方向に広がっていく様子が見られます。 始めは均一だった前線面は、時間の経過と共に出っ張りや裂け目が形成され、 複雑な3次元微細構造が形成されていく様子が再現されています。

高解像度*3非静力*4大気領域*5数値モデルの開発

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 数値シミュレーションモデルで急峻な地形および複雑な物体をより適切に扱うため、 斬新で新しい手法を提案し、非静力大気領域数値モデルの開発を行っています。 それは近い将来、数値計算手法の発達と強力なコンピューターの出現により、 計算メッシュを水平方向に100m程度の大きさで区切った領域モデルの実行が期待されるからです*6

 現在、安定性、効率および正確性を兼ね備えた力学過程のみの計算モデルがほぼ完成しています。 そして、障害物(例えば、立方体と山)廻りの流れの直接数値シミュレーション(DNS; Direct Numerical Simulation) や複雑地形における大気乱流のLES(Large Eddy Simulation)の計算(例えば、東京大手町の都市建物群内の流れ) について本モデルを実行し、その結果を以下に示しています。

  • 図1には立方体を覆う流れの直接数値シミュレーションの結果(馬蹄渦)が示されている。
  • 図2は、東京大手町の都市建物群の形状及び計算格子を示し、
  • 図3にはその建物影響を強く受けている地表近くの風と温度が示されている。

予報システム

Down Scaling Simulation System

 予報システムとは、講座内で数値予報を日々計算し、随時実況と比較できるという非常に魅力的なシステムです。 当講座では、Down Scaling Simulation System = DS3(ディーエスキューブ) と銘打った予報システムを2006年6月から運用しています。

 気象の数値シミュレーションには、初期値・境界値、予報モデル、計算機の3つが必要になります。 では、予報システムの場合はというと、初期値・境界値については気象庁のRSM(領域モデル:20km格子)を用います。 これは負担金を支払うことでほぼリアルタイムに取得できるものです。 予報モデルは、気象庁から貸与してもらった非静力学モデルJMANHMを利用し、 上図のような領域で24km→6km→1.5km格子のネストを行います(Down Scaling)。 計算機は、予報システム専用の高速並列計算機を用います(下図)。

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 現在は、4時半頃に5〜21時の予報を、16時半頃に17〜翌日9時の予報をweb上に掲載しています(閲覧は講座内限定)。 1.5kmという水平解像度は、気象庁のメソモデルの5kmを大きく上回る値であり、 地形をより正確に表現することが可能になっています。 地形の効果が大きいと考えられる、梅雨期のヤマセの進入や、奥羽山脈を越える雪雲の流入などについて予報精度の向上が期待されます。

解析手法

質量重み付き等温位(p†)座標系

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 我々の研究室では波動力学に立脚した大気大循環の描像を得るためにp†診断スキームを開発してます。 地球大気はほぼ南北軸対称な構造をしており,子午面循環は一義的に南北の温度傾度を解消する ような熱輸送を行っており,波動と平均流の相互作用に基づいて大循環場を理解することが非常に重要である.

 一般的な気象の教科書(例えば一般気象学など) において子午面循環は東西方向に圧力座標系で帯状平均されたオイラー的な見方が有名です。 低緯度にはハドレー循環が, 中緯度には波動活動による空気塊の楕円運動を反映したフェレル循環が,高緯度には極循環が投影されます. ただしこのオイラー的な見方による帯状平均場では,運動量やエネルギー輸送が群速度で表すことが出来ず, 熱・角運動量の現実的な輸送を表すことが出来ません.

 この問題を回避するため,波動活動(プラネタリー波や温帯低気圧)を波と平均流の枠組みで理解する方法として現在主流の 解析法にTEM(Transfer Eulerian Mean)法があります。 これは地衡流平衡(コリオリ力と気圧傾度力が釣り合うという中高緯度において良く成り立つ近似)の仮定の下、 ラグランジュ的な空気塊の動きを表現します.ただし,地衡流平衡の仮定以外にも波の無限小振幅を仮定したり、 下部境界における波動による運動量輸送が形状抵抗と一致しない,子午面循環が発散し,特にエネルギー解析においては 対流圏のエネルギーを過大に評価してしまうなどという問題点が挙げられます.

 そこで我が研究室では質量重み付けした等温位面帯状平均場を用いて解析を行っております。 すべての変数に質量で加重平均した等温位面帯状平均を行い,鉛直座標には等温位面で帯状平均した 気圧(p†)を用います.

 これによって実現される帯状平均場の特徴的な構造を表すものとして,上図に質量流線関数を示します. 北半球冬の12月から2月までの3ヶ月のデータを12年分用いています.特徴としてはTEM法同様に,低緯度から高緯度まで 直接循環が1セルとして卓越することがわかります.また,成層圏においても低緯度から高緯度に向かう循環が見えます. TEM法と大きく違う点は地面付近に見ることが出来ます.流線が地面と交叉することがなく,高緯度から低緯度へ向かう 反流が適切に表現されています.これは,地面付近における等温位面の扱い・質量重みをつけることによる効果である.

 この質量流線関数が意味するところは,大気大循環が主に(i)低緯度における非断熱加熱による強制と(ii)中高緯度における 波による運動量輸送の収束・発散によって駆動されていることです.波が平均流を加速・減速する,また,平均流が 波の伝播経路や減衰過程を規定するといった,波動-平均流相互作用を的確に表現したこの帯状平均場において ラグランジュ的な物質輸送を表現するに至りました.スライド

 このような新しいp†解析方法を用いて我が研究室では次のような問題解決に当たっております。

  • 定量的な渦位の解析
  • 角運動量の解析
  • 大気微量物質の輸送の解析
  • 大気エネルギーの解析
  • 温暖化による大気大循環変化の解析

*1 ある高さの空気を周りとのエネルギーのやり取りをせずに地表面まで動かしたときに観測される温度。
*2 周辺の値とのずれ。
*3 細かいメッシュで計算を行うこと。
*4 計算効率を向上させるための近似を行わない大気の計算手法。計算メッシュの水平方向の一辺の長さが大体10km程度より短くなってくると必要とされる。
*5 地球の一部分の領域を取り出して計算するモデルを領域モデルという。対象とする領域が狭いので、細かなメッシュでの計算が可能。対して、地球全体の計算を行うものは全球モデルと呼ばれる。
*6 現在、気象庁で運用されているものは日本付近の領域を水平10kmメッシュで区切って計算している。

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Last-modified: 2008-08-01 (Fri) 11:13:52 (4359d)