<アジアモンスーンを支配する物理過程>
 アジアモンスーンは夏季の重要な予測対象である。しかしながら、さまざまな非断熱過程が複雑に絡み合い、数値モデルによるモンスーンの再現精度は十分とは言えない。モンスーンは大まかに(1)地表面による太陽エネルギーの吸収(2)地表面と大気の間でのエネルギーの交換(3)海陸の気温差による大規模な循環系の形成(4)陸上における積雲対流の強化の4段階に分けることができる。まず(1)に注目して1ヵ月予報実験を行った。地表面に到達する太陽放射量はそれを遮る雲やエアロゾルによって大きく変動する。雲水量について大陸上と海上で同じパラメータ化を採用すると陸上で雲による反射を過小評価する。これが海陸の熱的コントラストを歪めアジアモンスーンの活動度に影響する。エアロゾルの量や化学的性質の海陸の相違が雲形成に影響し損結果放射場を変動させる可能性が指摘されています(エアロゾルの間接効果)。一方海上では雲放射-雲形成(雲消滅)-乱流相互作用が顕著で雲の光学パラメータが大気海洋相互作用に大きく影響する。さまざまな状況下における雲変動のプロセスをLES(乱流数値モデル)などを用いて明らかにする必要がある。  現在用いられているGCM(大循環モデル)は解像度が水平と鉛直で異方的な準2次元の特殊な流体力学モデルであり、パラメタリゼーションと呼ばれる気象学的な特殊な仮定を持ち込まざるを得ない。3次元等方的で高解像度のLESはそのような仮定を排除しより基本的な物理法則だけで現象を記述できる。モンスーンに限らずLESにより素過程のパラメータ化の方法を調べ、それを用いてGCMで気候系への影響を探る、というのがこれからのモデル研究の重要な柱になるだろう。