九月は日本の台風シーズンである。しばしば、衛星写真に端正な姿が映し出される。が、美しい姿とは裏腹に、時として多くの生命と財産をのみ込む厄介者である。
台風のエネルギー源は水蒸気が雨に変わる時に発生する凝結熱である。台風は水蒸気の多い熱帯海洋上で発生する。高い海面水温は台風発生条件の一つである。フィリピン周辺は海面水温が世界で最も高く、従って台風が多く発生する。南方海上で発生した台風は太平洋高気圧の周囲をまわり日本にもやってくる。
海洋上で発生する台風は測候所の観測では十分とらえきれない。不意打ちを防ぐため、第二次大戦後、気象庁と海上保安庁は海洋定点(北緯二〇度、東経一三五度)観測を共同で実施した。また、米軍の航空機観測も有効だった。
一九五九年の伊勢湾台風は三千人以上の犠牲者を出した。これを一つの契機として富士山レーダーが整備された。これらの観測システムは惜しまれながら現役を引退。今は、台風監視の重責を気象衛星が担っている。
かつて台風進路予報は経験的手法が中心だったが、七〇年代に入ると数値予報が積極的に利用されるようになった。予測精度の向上に伴い、八〇年代後半には、それまで一日だった台風進路予報期間が二日に延長され、現在では三日間の進路予報も発表されている。
もちろん、個々には予報の難しいケースもある。東北地方の場合、転向後の加速による不意打ちや温帯低気圧となってからの再発達に特に注意を要する。北日本の台風災害では、一九五四年の洞爺丸台風が有名だ。青函連絡船五隻が遭難し、なかでも洞爺丸は死者行方不明千百五十五人を記録した。これはタイタニックに次ぐ世界第二の海難事故となった。