ホームワークショップ第3回:要旨
第3回 非静力学モデルに関するワークショップ : 講演要旨
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野田暁・新野宏(東京大学海洋研究所)
スーパーセル型積乱雲の下降気流の力学

 スーパーセルとは非常に組織化した気流構造を持つ巨大な単一の積乱雲である。通常、積乱雲内部に発生する下降流は降水粒子の蒸発などによる負の浮力によって発生するのに対して、スーパーセルのそれは風の鉛直シアと上昇流との相互作用で発生した下層における気圧低下が周りの空気を活発に取り込み、そして下向きに加速させることで形成され、結果として数時間にもおよぶ自身の気流構造を保っていることがわかった。


三浦裕亮・木本昌秀(東京大学気候システム研究センター)
現実的な場の中での積雲アンサンブルの数値実験

 積雲パラメタリゼーション改善の指針を得る試みの一つとして、CSUのRAMSモデルを用いて現実的な条件のもとで積雲アンサンブルを生成する数値実験を行った。実験は、大規模客観解析場を外部境界とする数千kmの領域内にモデルを2重ネストして行った。領域は、梅雨期の中国大陸南部と西太平洋海洋上を選んだ。モデル中の積雲群の解析及び大規模場に対するArakawa-Schubertスキームの応答との比較から、積雲の triggering、境界層・中層の湿潤成層状態を考慮することの重要性を示唆する結果を得た。


那須野智江(地球フロンティア)・斉藤和雄(気象庁数値予報課)
熱帯のスコールラインの3次元数値実験

 気象研究所非静力学モデルを用いてTOGA COARE 期間中に観測されたスコールラインの数値実験を行なった。標準実験(dx=1.25km)では環境風の南北成分の鉛直シアーにより顕著な南北非対称が現れ、下層(z=1km付近)では前面へ向かう強い外出流とその南北での渦形成が再現された。分解能を下げた実験ではこれらの特徴が不明瞭になり、dx=2kmでも有意な違いが見られた。


中村晃三(地球フロンティア/東京大学海洋研究所)・斉藤和雄(気象庁数値予報課)・吉崎正憲(気象研究所)
FASTEX IOP 16 で観測された低気圧の雲の数値実験 低気圧の雲のモデル比較実験 (GCSS WG3) に関連して

 GEWEX Cloud System Studies WG-3 では、中高緯度の低気圧に伴う雲システムに関して、数値モデルの相互比較、および観測との比較を通じ、モデルとパラメタリゼーションの改良を目指している。今回は、FASTEX IOP16 (1997年、2月17日)で観測された低気圧の雲を取り上げた。気象研究所非静力モデルで計算を行った結果、低気圧の発達、前線に伴う雲がよく再現された。


長澤亮二・岩崎俊樹・浅野正二(東北大学大学院理学研究科)
局地気候モデルを用いたヤマセ時の雲形成-放射相互作用に関する研究

 局地気候モデルによってやませの再現実験を行なっている。用いた数値モデルは、気象研究所/数値予報課非静力学モデル(NHM)である。このモデルを1993年の全球解析に多重ネストしたところ、安定に一ヶ月間積分することができた。やませでは、雲形成-放射-乱流が複雑な相互作用を示す。そこで、各種光学パラメータのインパクト実験を行ない、やませにおける大気放射の役割を明らかにする。


清野直子・佐々木秀孝・佐藤純次・千葉  長(気象研究所)
MRI/NPD-NHMを用いた三宅島島内の火山ガス分布予測

 昨年の噴火以降、活発な火山ガスの放出が続く三宅島島内での安全確保に資する目的で、移流拡散モデルによるSO2の濃度分布計算を行った。水平格子間隔Δx =10km 相当のRSMに、Δx = 2km, 400m,100m のMRI/NPD-NHMを多重ネストし、三宅島を覆う最内側の100m格子モデルの結果を移流拡散計算に用いた。4ケースでの地点実測値との比較から、SO2濃度予測の性能を評価すると共にガスの分布特性を考察した。


加藤輝之(気象研究所予報研究部)
気象研究所/数値予報課統一非静力学モデル(MRI/NPD-NHM)の5km分解能での準ルーティン的運用

 MRI/NPD-NHMは現在までに豪雨・豪雪等の数値シミュレーションに威力を発揮してきたが、1997年梅雨期の九州地方を対象としたもの(Kato et al, 1998)を除き、現業的に用いた場合どの程度の精度を持っているかについてはあまり調べられていない。昨年、10月から関東地方を対象に2回/日、18時間予想の5km解像度モデルを準ルーティン的に実行することを始めた。その運用で表面化した問題点やレーダー・アメダス解析雨量と比較した結果を紹介する。


佐藤正樹(地球フロンティア研究システム/埼玉工業大学)
保存則を満たす非静力学モデルの差分スキーム

 次世代高分解能全球モデルの力学フレームとして, 保存則を満たす圧縮性非静力学方程式系の差分スキームを提案する. 密度, 運動量,内部エネルギーをフラックス形式で定式化する. 時間差分は, 音波・重力波の伝播に対してスプリット法を用い, 水平方向には陽解法,鉛直方向には陰解法を用いる. 丸め誤差の範囲内で全質量, 全エネルギーの保存性が保証される. 直方体領域において乾燥大気のテスト実験を行い, スキームの有効性が確認された.


肖  鋒(東京工業大学大学院総合理工学研究科)
A semi-Lagrangian/semi-implicit computational model for compressible and non-hydrostatic atmospheric flows

 A computational model for micro-meso scale geophysical flows is constructed by using a completely commpressible and non-hydrostatic framework. A semi-Lagrangian/semi-implicit formulation stablizes the numerical solution even without any artificially added diffusion. Efficient solvers were applied to compute the simultaneously linked linear algebriac equation for pressure. Some numerical examples, including the air flows over complex terrians, were computed and the results appear reasonable.


赤堀浩司・石黒貴之・服部啓太・須田礼二・杉原正顯(名古屋大学大学院工学研究科)
二重フーリエ級数展開に基づく全球高分解能モデルの高速計算

 非静力学数値モデルを含む次世代の高分解能全球モデルの力学部分を担う数値アルゴリズムとして、二重フーリエ級数展開にもとづく方法が考えられる。この方法では高速フーリエ変換を利用できるため、従来用いられてきた球面調和関数展開に基づくスペクトル法に比べ高速な演算が可能となる。発表では、球面上の二次元非発散方程式および浅水方程式系に対してこのアルゴリズムを適用した結果を紹介する予定である。


石井克哉・二瓶友典・赤堀浩司(名古屋大学大学院工学研究科)
結合コンパクト差分を用いた球面上の流体方程式の高速解法

 結合コンパクト差分は、差分法のもつ高速性の特徴と微分が高精度に表現できる特徴をあわせもっており、非静力学数値モデルを含む次世代の高分解能全球モデルの数値解法として有望であると考えられる。発表では、球面上の浅水方程式への適用結果を中心に、我々のこれまでの研究を紹介する予定である。


余  偉明(東北大学大学院理学研究科)
Development of a dynamical core for the next-generation atmospheric meso-scale numerical model

 In this paper, the Finite Volume Method (FVM) in conjunction with the SIMPLER (Semi-Implicit Method for Pressure-Linked Equation Revised) algorithms is used for calculations of the unsteady, three-dimensional, compressible Navier-Stokes equations on a staggered grid. Abandoning the customary terrain-following normalization, we choose the Cartesian coordinate in which the height is used as the vertical one. Blocking-off method is introduced to handle the steep orography and complex objects above the Earth's sea-level surface. As a preliminary test, the model has been run on flows over a cube mounted on surface. We found that no spurious flows are generated around the cube, and the simulations show a satisfying result. This inspires our confidence in the present numerical framework. Further work including three-dimensional computations on flow over/around a steep mountain is in progress.


吉田  恭・石原  卓・ 金田行雄(名古屋大学大学院工学研究科)
成層乱流のラージ・エディ・シミュレーションとサブグリッド・モデリング

 海洋の内部の小スケール領域(1〜100mのオーダー)を想定した, 一様成層乱流のラージ・エディ・シミュレーションを, 周期境界条件の立方体領域 (格子点数 512×512×512) で行った. サブグリッド・スケールはほぼ一様等方性乱流であると仮定して, 渦粘性と渦拡散はスペクトル理論より導かれたものを用いた. シミュレーション結果と海洋観測の結果の比較, より粗い格子でのサブグリッドモデリングについて論じる。


里村雄彦(京大・理)・岩崎俊樹(東北大・理)・木村冨士男(筑波大・地球)・斎藤和雄(気象庁・数値予報)・坪木和久(名古屋大・地球水循環セ)
急斜面モデル比較実験(St-MIP)について

 St-MIPは,最近のモデル分解能向上を受けて山岳の影響の表現が現行のモデルでどの程度まで可能かを調査するために企画され,様々な高さと半値幅を持つ孤立峰による山岳波のシミュレーション結果を理論解やモデル同士との比較を行っている。これまでのところ,よく使われているz*座標系でも45度を超えるような急斜面の孤立峰からの山岳波をよく再現することがわかってきた。会場では,発表までに集まったモデル結果の比較も示す。


飯塚  悟・近藤裕昭(産業技術総合研究所)
山岳地形上の流れのLES  −地表面粗度の違いが流れ場に及ぼす影響について−

 2次元山岳モデル上の流れをLES(Large Eddy Simulation)により解析した結果を報告する。地表面粗度を変化させ、これが流れ場に及ぼす影響を風洞実験結果との比較を交えて検討する。


石川宜広(気象庁予報部数値予報課)
気象庁メソスケールモデルによる4次元変分法データ同化システムの開発

 今年3月から防災気象業務の高度化を目的としてメソスケールモデルによる局地数値予報の運用が開始されたが、速やかにその精度向上を計るため、4次元変分法データ同化の導入が計画されている。4次元変分法はメソ現象の力学をモデルの初期値に適切に反映させるための解析技術であり、現在、現業化を目的とした開発が最終段階に来ている。今回は背景誤差共分散の設計や降水データを用いた予報実験などについて講演する。


室井ちあし(気象研究所予報研究部)
デジタルフィルターによる気象庁非静力学モデルの初期値化

 気象庁非静力学モデルにおける、デジタルフィルターによる初期値化の試みを紹介する。一般にモデルの予報立ち上がり直後は高周波ノイズが発生し、場が乱れてしまうが、初期値化を行うことにより立ち上がりがスムーズになる。これにより短時間予報の精度向上が期待される。簡便なデジタルフィルターを気象庁非静力学モデルに適用し、初期値化を行った場合の効果などを示す。


斉藤和雄(気象庁数値予報課)
MRI/NPD-NHMの開発課題と気象庁の開発計画

 気象研究所/数値予報課統一非静力学モデル (MRI/NPD-NHM)は、両機関の合意と開発開始から2年半を経過した。この間、最初の統合バージョンの作成、モデルの並列化、ソースコードの部外提供、現業版の開発、全球オプションの試験的開発などが行われてきている。ここでは、MRI/NPD-NHMの開発課題について、力学フレーム、物理過程、等の詳細を含めて議論し、また気象庁の体制と開発計画、モデル改良への部外への期待などについて講演する。


豊田英司(気象庁予報部数値予報課)
標準 Fortran コーディングルール

 遠隔地に所在する多数のプログラム開発者の共同作業の効率化においてはソースコードの配布や相互比較を効率化することが鍵となる。作業を機械化するためには、プログラムの書法を統一することが望ましい。ここでは気象庁内での書法統一への取り組みについて説明する。