第十話/天候デリバティブ/2004.11.1

 ビールの売り上げは夏の気温に、スキー場の経営は積雪量に左右される。あらかじめ分かっていれば、生産量や雇用調整などの対策も考えられようが、長期予報の精度は十分ではない。リスク管理のために登場したのが、天候デリバティブである。

 天候デリバティブは保険の一種。企業(被保険者)は掛け金を支払い、月平均気温などの気象データが、ある基準値を超えた場合、その差に応じて補償金の支払いを受ける。

 一般の災害保険では、被害額の算定に大変な手間と経費がかかる。デリバティブの場合は、補償額が気象データのみで決まり、単純明快である。補償額の算定に経費がかからない分だけ、補償額を増すことができる。その代わり、企業自身が損益と気象との関係を分析し、最適な契約を選ぶ必要がある。

 天候デリバティブは米国の総合エネルギー会社エンロンが始めた。同社は金融不祥事件で倒産し、天候デリバティブも一時信用を損ねたが、ここ数年は契約数が伸びている。単純明快さが受けるのだろう。

 掛け金は気候学的な変動度を考慮し補償額の期待値に基づいて決める。興味あるのは掛け金に予報が利用できるかどうかである。完全な予報が得られる場合は、契約ごとに最適化された掛け金は補償額に限りなく近づき、保険業務は成立しない。デリバティブは基本的に予報の難しい現象を扱うことが多いので、当然ながら予報はあまり利用されてはいない。最も可能性がありそうなのは、一カ月平均値などである。長期予報の確率表現もデリバティブの利用に向いている。ただし、長期予報をデリバティブに積極的に利用するためには、さらに精度向上が望まれる。

 注意すべきは、ばくち的な契約である。よい予測情報を持っていれば、リターンが多いときのみ買いに走ることが可能である。これを防ぐために保険会社は、予報技術と予報精度について十分な見識を持つ必要がある。


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