酸素は地球大気のおよそ21%(容積比)を占めている。しかし、生命にとって欠くことのできない酸素も、もともと地球にたくさんあったわけではない。植物の光合成によって2次的に作り出されたものだ。
植物の生存にはオゾンが必要である。オゾンは、酸素分子が光解離してできた酸素原子がもう一つの酸素分子と結合してできたもので、有害な紫外線から地上の生命を守っている。
つまり、酸素は、酸素→オゾン→生命(植物)→酸素という絶妙なトライアングルの上に形成される。酸素の少ない原始大気では、オゾンも少なく、有害な紫外線のため、植物が地表面に進出することは困難だった。しかし、生命進化と共にトライアングルが徐々に回転を始め、酸素量はあるしきい値を越えると、爆発的に増えた。
生命維持の鍵となったオゾンは、その大部分が高さ約十km以上の成層圏に分布する。人間の排出したフロンは、成層圏で活性化しオゾンを破壊する。特に、極域成層圏に発生する雲粒の表面では、フロンによるオゾン破壊反応が急速に進む。フロンが増えた1970年代後半から、オゾンホールが顕著に発達するようになった。
極域成層圏では、気温が低下すると水蒸気が凝固し雲が増える。雲が増えるとオゾン破壊が進みオゾンホールが大きくなる。すなわち、大気組成と気候変動にも強い相互作用が働いている。このため、大気大循環−化学輸送結合システムについて、計算機を駆使した予測研究を進めている。
1987年のモントリオール議定書によって、フロン排出規制が始まり、フロンの増加は止まった。現在の大きな関心は極域のオゾン量が回復するかどうかである。成層圏は、対流圏とは反対に、炭酸ガスが増加すると寒冷化する。このため成層圏雲が増加しオゾンの回復は遅れる、という予測もある。今後の観測データに注目が集まる。