第八話/チェルノブイリ原子力発電所事故/2004.10.18

 十年ほど以前、国際原子力機関(IAEA)に何度か通った。原子力発電所などの事故が起こった際に、放射性物質の拡散についての予測情報を国際的に提供する仕組みを検討するためである。

 発端となったのは一九八六年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故である。この事故で原子力発電所の安全管理の難しさをあらためて認識させられた。それに加えて、事故が起こった場合にその汚染物質が世界中に拡散することも教えてくれた。

 大気には国境がない。事故で放出された放射性物質は風に乗って流され、雲粒に捕捉され、降水となって地面に落下し土壌を汚染した。飛来した放射性物質は日本でも観測された。ヨーロッパの一部近隣地域では、高濃度の放射性物質を含む雨に見舞われ、とりわけ深刻な被害を受けた。

 放射性物質の放出量の時空間分布が分かれば、気象情報を利用し、大気による輸送や降水による落下などを計算で予測することができる。しかし、国際的な監視網と速報体制を整備することにはコストがかかる。また、このような予測データは不確実性も大きく、さまざまな利害対立を生ずるので、提供方法が難しい。それでもヨーロッパ諸国は、チェルノブイリの洗礼を受けただけにさすがに熱心で、危機管理について学ぶところが多かった。

 放射性物質の拡散予測のように、気象情報は、他の情報と組み合わせて、新しい情報へと加工される。近年、気象予測計算(数値予報)の精度向上を背景に、気象予測情報の数値化が急速に進んだ。数値化された気象予測情報は客観的な加工が容易で、その応用範囲は多岐にわたっている。


第七話 第九話