第十一話/ヤマセ/2004.11.8

 二〇〇三年、東北地方は、一九九三年以来の冷夏となった。北東風(ヤマセ)が太平洋側に吹きつけ、大きな農業被害を起こした。

 冷害の元凶であるヤマセの予報は東北の予報官を長年悩ませてきた。予報のポイントはオホーツク海高気圧と梅雨前線の動向であるが、これらを占う中・長期予報にはまだ多くの課題が残されている。

 オホーツク海方面に高気圧が発生すると、冷たい海面水温によって下層に冷気が涵(かん)養される。冷気が梅雨前線に向かって吹き出すと、相対的に暖かい海面から盛んに蒸発が起こる。湿潤な空気は背の低い対流によって下層雲を発生させる。雲は赤外線を放射して冷却し、雲量はさらに増加する。下層雲と冷気が太平洋沿岸に吹き付け、低温と寡照をもたらす。

 山の力は偉大である。東斜面では、海からの湿潤な冷気が滑昇する。断熱冷却のため、下層雲はさらに厚くなる。他方、西斜面では、下降気流となって断熱昇温を起こし下層雲は消散する。

 ヤマセの年、秋に奥羽山脈を東から西へ横断すると、登りではイネが青いまま直立しているのに、下りでは黄金色の稲穂が重く垂れている。奥羽山脈は、冬には日本海側に大量の雪を降らせるが、夏には日本海側をヤマセから守っている。

 地球が温暖化したら東北の夏はどうなるだろう? まだ研究段階で予断を許さないが、次のような仮説が立てられている。地球温暖化に伴い夏季のアジアモンスーンが強化される。その結果、梅雨前線は活発になり、ヤマセの発生頻度は増える。他方、温暖化に伴って海面水温が上昇する。その結果、ヤマセにならない場合はこれまで以上に暑くなる。すなわち冷涼な夏が増えるが、暑い夏はこれまで以上に暑くなるというわけだ。この仮説の妥当性はスーパーコンピューターによって検証しなければならない。


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